第90回全国市長会議 決議

東日本大震災からの復旧・復興及び
福島第一原子力発電所事故への対応に関する決議


 東日本大震災から9年が経過し、被災した各自治体が懸命の取組を続ける中、それぞれの被災自治体は復旧・復興の段階に応じた種々の課題に引き続き直面している。
 国においては、令和元年12 月に「『復興・創生期間』後における復興の基本方針」を閣議決定し、復興庁の設置期間を10 年間延長して、引き続き内閣直属の組織とし、その事務を総括する等のため復興大臣を置き、復興事業予算の一括要求などの現行の総合調整機能を維持するとした。復興・創生期間後の令和3年度以降も、被災自治体において地域の実情に応じた被災者の生活再建や地域の復興を進めるためには、復興財源の確保はもとより、復興事業に係る専門的知識を有する人材の確保、予算制度の拡充・強化、柔軟な運用等を図ることが必要である。また、今後新たに顕在化する課題に対しても引き続き国が前面に立って取り組む必要がある。
 さらに、東京電力福島第一原子力発電所事故についても、国は、早期収束へ向け、引き続き、事業者と一体となって総合的かつ全面的な責任のもとに全力で取り組むとともに、二度と同様の事故による被害と困難を招かないよう万全の措置を講じなければならない。
 よって、国は、被災地の一日も早い復旧・復興を実現するとともに原発事故が早期に収束されるよう、下記事項について特段の措置を講じるよう強く要請する。



1.復旧・復興事業の実態に即した財政支援等について
(1)今後、コミュニティの再生など新たなまちづくりの諸課題への対応が重要となることから、被災規模や地域の実情に応じた復興まちづくりを実現するため、復興交付金の柔軟な運用を図ること。また、災害復旧事業並びに震災復興事業に係る震災復興特別交付税等の地方財政措置について、復興事業が完了するまでの間、継続的な措置を講じること。
(2)震災発生から時間が経過すること等により、各支援自治体では職員等派遣が困難となる状況が見受けられることから、復興の取組に必要となる技術職員等の人材の確保や被災自治体への職員派遣について、引き続き必要な措置を講じること。
(3)避難先における十分な支援を継続するため、避難者受入市町村の負担が生じないよう十分な財政措置を講じること。
(4)災害援護資金貸付制度において、各自治体が当該貸付金に係る債権を免除または放棄することが適当であると判断する場合には、国においても自治体への債権を免除する規定を整備するなど、将来的に被災自治体の財政的な負担が生じることのないよう見直すこと。
 また、多くの被災者が本制度を必要としている状況にあることから、令和3年3月31日までとなっている申請期限を延長すること。
(5)復興・創生期間後において、すべての被災市町村が地域の実情に応じ、必要な取組を継続して進めることができるよう、新たな交付金制度を創設すること。

2.被災者の生活再建支援等について
(1)東日本大震災等の影響による医療費の増加は、今後も続くことが想定されることから、医療費増加に伴う負担増分として財政支援を継続すること。
(2)被災者生活再建支援金については、被災地の実態にかんがみ、上限額や適用範囲の拡大等、総合的な制度の見直しを図ること。

3.公共施設等の復旧支援について
(1)復興道路や復興支援道路等については、財源を十分確保し、整備方針に基づく着実な事業実施により、早期に全線開通を図ること。
(2)復興を加速させていくため、鉄道事業者とも連携し、線形改良や道路との立体交差等による高速化など、鉄道の基盤強化と利便性向上を図ること。
(3)港湾関係予算を確保し、湾口防波堤の整備促進を図るとともに、真に必要なふ頭用地の造成や岸壁整備など、港湾機能の強化を図ること。
(4)被災地において統一して遠隔自動化した水門や陸閘及び適切な避難行動を誘導するための避難路の維持管理費について、交付税措置などの財政支援を講じること。

4.政府主催の東日本大震災追悼式の継続について
 東日本大震災の追悼式については、復興・創生期間後も引き続き政府主催により継続すること。

5.福島第一原子力発電所事故への対応について
(1)原発事故の早期収束を成し遂げるため、除染・放射線モニタリングなど原発事故由来の事業については、引き続き、国の責任において、全額国費負担により強力に推進すること。
(2)放射性物質汚染廃棄物の管理・中間処理・最終処分などの処理のプロセス及び中間貯蔵施設・最終処分場の設置等について、国が主体的に責任を持って住民に説明し、その推進を図ること。
 また、基準を超える廃棄物の処理及び必要な施設の管理について、国が迅速に責任を持って対応すること。
 なお、除去土壌等の輸送に当たっては、関係機関と連携し、地域の実情に応じた道路改良や補修など必要な道路・交通対策を実施すること。
(3)福島第一原子力発電所の廃炉・汚染水対策については、事業者に任せることなく国が前面に立ち、確実に完遂すること。
(4)原発被災地の都市自治体が放射性物質対策に要した経費及び財物損害等については、国及び事業者の責任により完全賠償すること。
 商工業等に係る営業損害については、一括賠償による対応が取られてきたところであるが、損害が継続して発生している場合においては、適切に賠償するよう東京電力を強く指導すること。
 また、農林水産業に係る営業損害についても、依然として出荷制限や風評被害により厳しい状況に置かれていることを踏まえ、十分な賠償を確実に継続するよう東京電力を強く指導すること。
(5)原発事故により影響を受けている避難者を含めたすべての被災者の健康の確保、特に子ども及び高齢者等の心と体のケアや学校現場での対応について人的及び財政支援を講じること。
(6)原発事故による人口移動に伴う公立病院の経営悪化に対して自治体が行っている多額の財政支援に係る財政措置を講じること。
(7)避難者の早期帰還を促進するため、不足する福祉・介護及び保育・子育て分野の人材確保に向けた財政措置など必要な支援策を講じること。

6.原子力災害からの復興・再生について
(1)被災地における地域経済の活性化と安定した雇用を創出するため、地域産業の中核を担う人材の育成や企業誘致につながる施策に係る財政措置の拡充等を図ること。
(2)「原子力災害により影響を受けた地域」とのイメージから生じる農林水産物などの各分野の風評被害を解消するため、国内外に対し放射線に関する正しい知識の啓発及び風評被害払拭に向けた積極的な広報を行うこと。
(3)風評被害の影響等により落ち込んだ観光客の回復を図るため、広報・PRに対する支援、教育旅行の再生、さらには、観光地の整備などハード・ソフト一体となった観光施策を推進すること。
(4)福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想並びに福島新エネ社会構想の実現に向けて、国及び関係地方自治体等が一体となって具体的な取組を推進し、新産業の集積と雇用創出を強力に支援すること。
(5)原発被災地における鳥獣被害については、野生鳥獣肉の出荷制限に起因する狩猟者の減少等により、その被害が深刻化していることから、電気柵の設置等の被害防除や緩衝地帯の環境整備など被災地における鳥獣被害防止対策を充実するとともに、広域的な視点から国・県が連携して支援すること。
(6)放射能に関する国民の正しい理解を促進するため、例えば高等学校の入学試験に放射能に関する出題を行うなど、教育の現場において幅広い角度からより実践的な取組が行われるよう努めること。

7.原子力安全・防災対策の充実について
(1)福島第一原子力発電所事故の徹底した検証に基づき、いかなる場合においても原子力発電所の安全が確保できるよう万全の対策を講じるとともに、新規制基準に基づく適合評価について、厳格なる審査のもと、結果を分かりやすく説明すること。
 また、新規制基準については、不断の改善に取り組むこと。
(2)関係地方自治体が策定する地域防災計画及び避難計画の実効性を高めるため、都市自治体だけでは解決が困難な課題について、国・県等が連携して支援すること。さらに、原子力防災対策の拡充強化に伴う財源を確実に措置し、速やかな事業実施に配慮すること。


以上決議する。

令和2年6月3日

                                   全 国 市 長 会
第90回全国市長会議