第90回全国市長会議 決議

国土強靱化、防災・減災対策等の充実強化に関する決議


 我が国は、その自然条件から、地震、津波、台風、豪雨、火山噴火、豪雪、竜巻など、これまで数多くの災害に見舞われてきた。昨年においても、8月の前線に伴う大雨による水害や、令和元年房総半島台風に伴う風害や停電、令和元年東日本台風及び台風21 号に伴う風水害など、大規模な災害が頻発しており、住民生活に深刻な影響を及ぼしているだけでなく、地方創生の取組等にも影を落としているところである。
 現在、被災した自治体においては災害復旧・復興に向けた取組を進めているほか、都市自治体においては、様々な防災・減災対策の充実強化に取り組んでいるが、今後も気候変動に伴う降水量の増加や、南海トラフ地震や首都直下地震等の大規模災害の発生も懸念されていることから、これらの災害による被害を可能な限り抑止し、住民の生命と財産を守り、地方創生の取組等を進めていくため、国土強靱化及び防災・減災に向けた取組をより一層進めていくことが急務となっている。
 また、インフラの維持管理を適切に行うことにより、防災効果を高めることができるが、都市自治体の財源は限られており、必要となる点検や維持修繕の実施に支障が生じていることから、老朽化対策も推進する必要がある。
 よって、国は、国土強靱化、防災・減災対策及び被災地の復旧・復興に向けた支援の充実強化を図るよう、下記事項について、迅速かつ万全の措置を講じられたい。



1.国土強靱化に向けた取組の充実強化について
(1)近年頻発する大規模災害にかんがみ、強靱な国土づくりを強力かつ継続的に進めるため、令和2年度までとなっている「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」について、老朽化対策等も対象とするなど対象事業を拡大のうえ、当初予算において、通常予算とは別枠で必要な事業費を確保し、令和3年度以降も継続すること。
(2)道路、河川、砂防、上下水道等の社会資本整備を地方においても集中的に推進するため、防災・安全交付金、社会資本整備総合交付金等を確保するなど、国土強靱化と防災・減災対策を加速するための財源を十分確保すること。
 また、事業年度が令和2年度までとされている緊急防災・減災事業債、防災・減災・国土強靱化緊急対策事業債及び緊急自然災害防止対策事業債については、引き続き防災・減災対策を充実強化させることが必要であるため、対象事業を拡大する等の地方財政措置の拡充を図るとともに、令和3年度以降も継続的に災害対策事業を実施できるよう期限を延長すること。
(3)災害時においても物資等を運搬できるよう、高規格幹線道路網のダブルネットワーク化、暫定2車線区間の4車線化等の道路ネットワークの機能強化、無電柱化等の実施による災害に強い道路整備を実現すること。

2.生活・経済を支え、安全・安心を確保するためのインフラの機能確保について
 橋梁、トンネル、河川施設、下水道、公園、港湾施設等の構造物のうち、機能に支障が生じる可能性があり、早急に措置を講ずべき施設については、短期集中的な対策及び安全性の確保に必要な予算を確保すること。
 また、インフラの予防保全への本格転換を促進するため、都市自治体が管理する膨大な量の構造物のみならず、国や県等が管理する構造物について、適切に点検、維持管理・更新することができるよう、インフラ整備の予算とは別枠で、必要となる財源を継続的かつ十分に確保すること。

3.地震・津波・火山噴火対策の充実強化について
(1)国と地方が連携して地震対策に取り組んでいくために、地域の実情を十分配慮のうえ、「国土強靱化基本計画」、「南海トラフ地震防災対策推進基本計画」、「首都直下地震緊急対策推進基本計画」等の諸計画を着実に推進すること。
 また、国土強靱化基本法に基づき都市自治体が策定する国土強靱化地域計画について、気候変動や社会情勢に応じて柔軟な計画策定・改定ができるよう財政措置を講じること。
(2)津波対策等として、防潮堤や水門などの津波防護施設を早期に整備するとともに、既存の堤防等の耐震化等について財政措置を講じること。
 また、被災後の物流網の早期復旧や膨大な災害廃棄物の迅速な処理等のため、ガントリークレーンの整備等、港湾施設の充実強化を図ること。
(3)火山噴火による被害を最小限とするため、監視・観測体制の充実強化を図るとともに、国及び都道府県の主導による広域的な組織体制の構築や、実践的な防災対策、風評被害対策を講じること。

4.台風・豪雨・雪害対策の充実強化について
(1)「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」に基づく河川合流部等の堤防強化策や堤防かさ上げ等に係る取組を加速化・深化させるとともに、河川関係施設等の整備や補修等必要な対策が迅速かつ計画的に実施できるよう十分な予算を確保すること。
 また、地方管理河川における維持管理について支援措置を拡充すること。
(2)計画規模を超える降雨を想定した内水浸水対策の抜本的な強化を図るとともに十分な財政措置を講じること。また、排水機場の増強、排水ポンプ車の増強などによる排水処理体制の強化措置を併せて講じること。
(3)土砂災害に備えるため、砂防関係施設の重点的な整備や気象観測体制の強化など、ハード・ソフト一体となった総合的な対策を講じるとともに、土砂災害対策の推進について十分な支援措置を講じること。
(4)大規模な災害によるブラックアウト(大規模停電)を回避するため、非常用電源や燃油供給体制の構築、電力系統の増強、さらには地域における電源の分散化など、引き続き電力供給の強靱化を図ること。
 また、停電発生時においては、被害状況及び復旧の見通しを迅速かつ的確に情報発信を行うとともに、早期の復旧に向けた体制が確保されるようにされたい。
(5)近年の豪雨災害を踏まえ、住民の自主的な避難行動につながるよう、河川監視カメラの増設や地方自治体による適時的確な避難勧告等の発令に資する災害予測システムなど新たな技術を活用した住民の目線に立った防災情報提供方法の開発などハード・ソフト面の充実強化を図るため、大幅な予算の拡充など必要な措置を講じること。
(6)大雪時の道路交通を確保するため、都市自治体の道路除排雪経費に係る財政措置に万全を期すとともに、将来にわたり持続的に除排雪体制が確保されるよう除雪オペレーターの確保・育成支援に取り組むこと。
 また、人口減少、高齢化の顕著な豪雪地帯における共助による雪処理の担い手確保や安全な屋根の雪下ろしの体制づくりなどを積極的に支援すること。

5.防災・減災対策の充実強化について
(1)平常時の予防対策から応急対策、復旧・復興対策を総合的に推進する広域ブロックの中核的な防災拠点となる「基幹的広域防災拠点」を、国の責任において全ブロックに早期に整備すること。
(2)災害対策の中心的施設としての機能を有する庁舎や避難施設等については、建替えや耐震補強を図るための十分な財政措置を講じること。
 また、公共施設等適正管理推進事業債については、地域の実情に合わせた柔軟な制度とすること。
(3)災害時の緊急避難場所や避難所として指定されている学校体育館等について、空調設置等の環境整備のために必要な財政措置を講じること。
(4)災害に強い情報通信インフラを構築するとともに、災害に関する的確な情報を多様な手段で提供するなど、被災エリアのすべての人々の命を守る行動を支援する仕組みの充実強化に努めること。
(5)災害発生時における広域的かつ機動的な危機管理体制を確保するため、国は、TEC−FORCE等の迅速な派遣及び支援を実施するとともに、平常時から自治体とホットラインを確立するなど、地方との連携強化に努めること。また、被災地支援の強化に必要な地方整備局等の人員・資機材等を確保するなど、災害対応のための組織体制の充実及び機能の強化を令和3年度以降も継続的に図ること。
(6)国においては、地方と連携を図りながら、防災能力向上のための危機管理研修や、ハザードマップ等を活用した実践的な防災訓練等の充実強化を図ること。
(7)現行の水害におけるり災判定について、被害の実態に即し、かつ迅速な判定が可能となるような判断基準の設定を検討すること。

6.被災地支援の充実強化について
(1)被災地の早期復旧を図るため、被災自治体の実情を踏まえた、人的・財政的な支援を積極的かつ継続的に講じるとともに、被災者の生活再建への支援や、災害廃棄物処理の支援など、被災地の一日も早い復旧・復興のために必要な支援の充実強化を図ること。
(2)被災自治体への支援を効果的に行うため、支援物資の提供、職員派遣、避難先確保等の地方自治体間の支援について、災害救助法及び関係する諸制度に位置づけたうえで、幅広く財政措置を講じること。
(3)被災自治体において、復旧・復興を担う技術職員等の専門人材が不足していることから、必要な人材確保や被災自治体への職員派遣について、引き続き必要な措置を講じること。
(4)被災した施設等を、従前よりも災害に強い構造で復旧できるよう、改良復旧事業の積極的な推進を図ること。また、現行構造基準へ適合した復旧を災害復旧事業とすることを認め、さらに、改良復旧事業の要件緩和を行うなど、地域の実態を踏まえた制度改正を図ること。
(5)災害救助法に基づく住宅応急修理制度において、水害による応急修理の審査事務の簡素化や制度の対象範囲について、現場の実態に即した見直しを図ること。


以上決議する。

令和2年6月3日

                                   全 国 市 長 会
第90回全国市長会議