第88回全国市長会議 決議 |
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ネクストステージに向けた都市自治体の税財政の あり方に関する特別提言 |
我が国の人口は2008年に減少局面に入り、都市自治体でも、超高齢・人口減少社会への対応が重要課題として認識されるようになった。 このような未経験の社会的局面(ネクストステージ)に向き合い、適切に対応するのは、直接住民に接している都市自治体の使命である。 財政状況は年々厳しさを増しており、都市自治体は多様な取組を行っているものの、その役割を確実に果たしていくうえで十分な財源を確保することはできていない。 このため、あらためて、全国レベルで、対人社会サービスや人づくり分野、地域コミュニティ・社会的ネットワークの領域を中心に都市税財政の課題を捉え直し、ネクストステージに向けた税財政の仕組みを考えていく必要がある。 以上の認識に立ち、都市自治体がその役割を確実に果たしていくための国・地方を通じた新たな財源確保策等について提言する。 |
Ⅰ ネクストステージに向けた都市税財政の構築が求められる背景 ○ 新たな局面を迎えている都市自治体の役割 情報通信技術が飛躍的に発展し人々の生活や交流のあり方を変えつつあり、新たな環境変化に対応できる人材育成や住民サービスの提供、人的インフラへの投資が重要視され、都市はそのプラットフォームとなることが期待されている。 また、都市は、地場産業や観光産業の育成の場となっており、インバウンドや国内旅行に伴う経済活動が活況を呈する中で都市自治体が経済界や地域住民とともに果たす役割は大きい。 一方で、持続可能な地域づくりの視点で言えば、成長期に整備されてきた公共施設等の再編更新・維持管理が大きな課題となっており、さらには、まちづくりと一体となった持続的な公共交通網の形成が地球環境保全の観点からも課題となっているが、財源の確保などの面で大きな障害に突き当たっている。 ○ 都市自治体の対人社会サービスと人づくり分野の経費の総額確保の必要性と従来の仕組みの限界 超高齢・人口減少社会にあって、都市自治体においては、高齢者福祉、介護、障がい者福祉、子ども・子育てといった対人社会サービス分野における経費の増加が引き続き見込まれており、国の法令による義務付けが多い中にあって、国の財政措置が十分になされておらず、財政面、事務負担面で苦慮している。 さらに、都市自治体は、地域包括ケアシステムの構築に当たって、地域社会のニーズを踏まえ、高齢者の医療・介護のみならず障がい者福祉や子ども・子育て、子どもの貧困対策といった課題とも関連させて対応を図ってきているが、国の従来の縦割の仕組みのもとでは、こういった取組に適切に対応することができない。 また、教育においては、都市自治体は、いじめ・不登校・発達障害など特別な教育ニーズに対応する必要に迫られているほか、ICT教育など新たな教育への対応も求められている。 このように多様な社会ニーズに対応するため、教育や人づくりにおいては、質の確保が重要となっているが、現行の義務教育国庫負担金の仕組みだけでは、教育現場におけるニーズに十分対応できない。 各都市自治体は、地域の特色を生かしながら教育や人づくり施策に取り組んでいるが、その多くが単独事業によって賄われており、総額が不足する中で住民に負担を求めている実態もある。 ○ 地域コミュニティ・社会的ネットワークの再構築が必要 超高齢・人口減少社会において都市財政が厳しさを増す中にあって、全てを行政が担うことには限界があり、これまで都市自治体の中で当然に行われてきた様々なサービスの見直しが課題となっている。 社会全体で安心・安全な暮らしを構築することは必要であり、困ったときに支え合う仕組みも大事である。 一方で、超高齢・人口減少社会は、地域コミュニティの機能低下ももたらしており、あらためて地域コミュニティで見守り支え合う仕組みづくりや社会的ネットワークの構築が必要になってきている。 しかしながら、こうした地域コミュニティや社会的ネットワークづくりのための財政需要については十分に手当てされているとは言い難い。 ○ 国・地方の厳しい財政の現状 現在の我が国財政は巨額な財政赤字を抱えており、また、地方財政も交付税特別会計に多額の借入金残高を抱え、加えて、毎年度の交付税財源の不足を臨時財政対策債で補い続けている。 消費税率の10%への引上げは2019年10月に実施されることとなっているが、消費税増税の使途は社会保障4経費に限定されており、必要とされる財政需要を賄うには至っていない。 また、消費税の税率は、国際的に見ても低い水準であり、OECD諸国に比し低い租税負担率で高い水準の社会福祉サービス提供を行わなければならないなど厳しいものとなっている。 このような中、都市自治体は、住民生活に必要なサービスの水準を維持していくため、徹底した行財政改革による歳出の削減や徴税努力、命名権の導入などの増収対策、さらには、公民連携や市民との協働などに取り組んできているが、不足する財源を十分に補うことができるものではない。また、都市自治体が超過課税や法定外税によって独自に財源確保を行うことも制度上は可能であり、いくつかの都市自治体では取組が行われているが、困難な面も多く、その税収も十分には期待することができない。 II 提言 超高齢・人口減少社会といった未経験の社会的局面(ネクストステージ)に向き合い、それぞれの都市自治体が自立し、自由度の高い行財政運営が可能となる都市税財政の仕組みを構築していく必要がある。 このように都市自治体がその役割を確実に果たしていくための国・地方を通じた新たな財源確保策等について提言する。 1.基本的な方向性 これまで、全国市長会では、地方六団体で歩調を合わせ、税源の偏在性が小さく税収が安定的な地方税体系の構築、国と地方の役割分担に応じた税財源配分の実現を求めてきた。 今回の提言では、これに加えて、次のとおりの提言を行う。 (1)基幹税の充実強化を行うとともに都市自治体の対人社会サービスと人づくり分野の財源を確保すること 財政需要の急増や多様化に迅速かつ的確に対応できるようにするため、一般財源を充実確保していく観点から、国地方を通じて所得課税と消費課税を中心とする基幹税の充実強化を図る必要がある。 特に、従来型の国庫補助負担金を中心とした財政制度は限界に来ており、基幹税の充実を通じて、都市自治体の対人社会サービスと人づくり分野の財源を確保することが必要である。 (2)都市自治体の基幹税の確保と財政調整制度の充実強化を図ること 都市自治体としての基幹税の充実強化も重要である。都市自治体においては、個人住民税、法人住民税、固定資産税が基幹税として意識されており、まずはこれらの税源の充実強化を図っていくことが必要である。さらに、地方消費税についても、都市自治体の基幹税として捉え直すことが必要不可欠である。なお、都市自治体として国の経済対策に協力することにやぶさかではないが、仮に時限的な措置であっても、基幹税である固定資産税を国の経済対策のために用いるような手法は断じて行うべきではない。 また、財政調整制度については、地方交付税が恒常的な財源不足の状態にあり、臨時財政対策債の発行に依存して財源を確保していることから、こうした状況を改善していく必要がある。 (3)新たな局面を迎えている政策課題に対応するための財源を確保すること インバウンドや国内旅行に伴う経済活動が活況を呈する中で都市自治体が経済界や地域住民とともに果たす役割は大きい。このための財源確保が必要である。 さらに、持続可能な地域づくりの視点から、公共施設等の再編更新・維持管理、地球環境保全の観点をも踏まえた公共交通網の形成のための財源の確保が必要である。 (4)地域コミュニティの再構築とそのための財源を確保すること 超高齢・人口減少社会においては、地域コミュニティで見守り支え合う仕組づくりや社会的ネットワークの構築が必要になってきている。こうした地域コミュニティや社会的ネットワークづくりといった財政需要については、専門性を持った人材の地域での確保・育成を含め、十分に財源を確保することが必要である。その場合、交通不便地域のコミュニティバスやデマンド交通などの交通手段の確保といった事業の財源確保もコミュニティ維持のためには欠かすことができない。 2.個別の項目 (1)地方消費税の充実 ア 消費税・地方消費税率10%への引上げの確実な実施 今後の少子高齢化・人口減少の進行による社会保障関係経費の増加が避けられない中、市民が不安を感じることのない社会保障制度の維持のためには、安定的な税収である地方消費税の役割は大きい。したがって、まずは消費税・地方消費税率10%への引上げについては、2019年10月に確実に行うこと。 イ 消費増税による増収分の使途及び配分 今後の消費税の引上げに伴う増収分の使途の見直しに当たっては、今後特に重要となる対人社会サービスや人づくりなどにおいて地方が真に必要とする財政需要を的確に把握し、国と地方の配分割合について検討すること。 なお、「人づくり革命」部分の財源に充てることとされる消費増税による増収分については、その具体化に当たっては地方と十分協議するとともに、財政需要の実態を踏まえながら、人づくり・教育の現場を担う都市自治体へ重点的に配分すること。 ウ 消費税・地方消費税率の引上げの検討 我が国の消費税は、国際的に見て課税水準が低いことから、対人社会サービスや人づくりなど、都市自治体が今後も行政サービス水準を維持し、ますます多様化かつ拡大する財政需要に的確に対応できるよう、消費税・地方消費税の将来的な課税水準のさらなる引上げについて、検討すること。 なお、引上げが行われる場合には、消費税から地方消費税への税源移譲を含め、地方消費税の充実、とりわけ市町村への配分を拡充すること。 エ 地方消費税の市町村の基幹税としての位置付けの明確化(「市町村消費税(仮称)」) 地方消費税の一定割合を「地方消費税交付金」として都道府県から交付されている現行の仕組みを見直し、「市町村消費税(仮称)」として直接市町村に配分する仕組みを構築するなど、地方消費税については市町村の自主財源、基幹税であることを明確に位置付けること。 (2)地方交付税(地方共有税)の充実 ア 地方交付税の機能強化と総額確保 地方交付税は地方の固有・共有の財源であり、財源調整・財源保障の両機能を強化するとともに、地方自治体の財政需要に対応した交付税総額を確保すること。 イ 地方交付税の「地方共有税」化 地方団体固有の財源という地方交付税の性格をより明確にするべく、「地方交付税」を特会直入とする「地方共有税」に変更すること。 ウ 地方交付税の財源確保・拡充 恒常的な地方交付税の財源不足については、臨時財政対策債によることなく、地方交付税の法定率の引上げ等により対応すること。 また、相続税を対象税目に追加するなど、交付税財源の拡充を図ること。 (3)国の関与について ア 国庫補助負担金のあり方 超高齢・人口減少社会において都市自治体が地域の課題に真正面から取り組んでいくためには、国の縦割りによる従来型の国庫補助負担金の仕組では十分な対応ができない。都市自治体の裁量と創意工夫を活かした分野横断的、総合的な施策が展開できるよう、基幹税の充実や税源移譲を通じて、都市自治体が必要とする経費の総額を確保すること。 イ 地方単独事業に対する国の関与について 介護予防や放課後児童対策など、地方単独事業については、その実施が法令等によって義務付けられているものが多く、細かな点まで国の関与がある一方で、財源措置が十分になされていない。 地方分権改革の趣旨を踏まえ、地方の裁量と創意工夫を活かした地方単独事業が実施されるべきであり、国の関与は極力避けるとともに、それに必要な財源措置の充実を図ること。 (4)都市税財源の充実確保等 ア 対人社会サービス分野に関する財源の充実確保 国民健康保険や介護保険、障がい者福祉など、対人社会サービスの多くが国の法令等によってその実施が都市自治体に義務付けられている。こうした事務については、真に必要な財源を確保するとともに、財政措置の充実を図ること。 また、現在、すべての都市自治体において子どもの医療費助成が行われているところであり、少子化対策が我が国における喫緊の課題であることにかんがみ、国の責任において、子どもの医療費助成制度を創設すること。 なお、子どもの医療費助成等の地方単独事業を実施している都市自治体に対する国民健康保険の国庫負担減額調整措置については、極めて不合理であることから、子どもの対象年齢に関わらず減額措置を全面的に廃止すること。 イ 人づくり・教育に関する財源の充実確保 現在の教育現場は、特別な配慮を必要とする児童生徒の増加への対応や、教職員の働き方改革など、様々な課題が山積していることから、これらの課題に対処できるよう、地方が必要とする教職員定数、加配定数の一層の拡充や必要な財源の充実確保を図ること。 また、学校施設の新増築・老朽化対策、耐震化、空調設備・トイレ等の整備、さらにはICTなど新しいカリキュラムに対応した施設・設備の整備といった諸課題に、都市自治体が十分かつ計画的に対応できるよう、必要な財源の確保と財源措置の拡充を行うこと。 ウ 観光に関する財源の充実確保 近年の訪日外国人観光客の増加に対応するための受入態勢の整備や情報発信力の強化が課題となっていることから、その財政需要に対応すべく、都市自治体においては、宿泊税をはじめとした財源確保策の導入に向けた検討が行われている。 国においては、都市自治体の自主性を尊重しながら、必要な財源措置等の支援を行うこと。特に、国際観光旅客税の税収については、都市自治体の財政需要にも応えるべく、譲与税方式による配分も含め、対応を行うこと。 エ公共施設、インフラ等の維持管理、再編、整備等に関する財源の充実確保 公共施設等の適正管理を推進するため、平成30年度の地方財政対策において、河川、港湾等の長寿命化事業等を対象に追加するとともに、事業費が増額されたが、今後の超高齢・人口減少時代に対応するためには、公共施設やインフラ等の更新・統廃合・長寿命化等の取組の必要性がより一層増すことから、国は引き続き必要かつ十分な財源を確保すること。 オ 地域公共交通に関する財源等 地域公共交通は、地域住民の生活の基盤であるのみならず、地球環境保全にも大きく寄与するものであることから、その財源については、既存の国の助成制度の充実や国鉄改革の経緯を踏まえた並行在来線についての国の支援等を行うとともに、特に地球温暖化対策税については、鉄・軌道事業等への充当拡大等を含め対応を行うこと。 なお、いわゆるJR三島会社の鉄道網の維持・存続や経営の再生に関しては、経営安定基金のあり方等も含め、これまでの経緯を踏まえ、国が中心的な役割を担い、抜本的な改革を行うこと。 カ 都市自治体が魅力ある地域づくりに自主的に取り組むための財源の充実確保 超高齢・人口減少時代にあって魅力ある地域の創生を図っていくための都市自治体の取組については、国は、長期的な視点に立って、積極的かつ継続的な支援を行うこと。なお、地域の実情に応じたきめ細かな施策が実施できるよう、「まち・ひと・しごと創生事業費」を拡充・継続すること。 キ 広域連携に関する財源の充実確保 連携中枢都市圏や定住自立圏などの広域連携の取組については、地域の実情に応じて、十分かつ適切な財源措置を行うこと。 ク 「協働地域社会税(仮称)」の創設など地方の新たな財源確保に向けた取組 超高齢化・人口減少などに伴い、地域住民の生活や地域コミュニティの維持存続に不可欠な行政サービスの提供が難しくなってきており、地域コミュニティや社会的ネットワークの再構築が必要となっている。こうした急激な社会環境の変化に緊急に対応するべく、地域の様々な公共的活動への支援や交通不便地域の住民の交通手段の確保といった、既存の財政制度の枠組みでは十分対応しきれない財政需要を満たすため、連帯して経費を賄う「協働地域社会税(仮称)」の創設など地方の新たな財源確保に向けた取組を行うこと。 |
以上決議する。 平成30年6月6日 全 国 市 長 会 |
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