第86回全国市長会議 決議

多世代交流・共生のまちづくりに関する特別提言


 全国的には人口減少が進んでいるが、「人口総数」でいえば、明らかに三大都市圏に人口が集中しており、人口構成の歪みと偏在化がある。1980 年代後半からすでに高齢化が進んでいる地方と、これから高齢化が進む地方とは1世代分のタイムラグがあるほか、後発組の高齢化はより速く進むため、課題は一層深刻である。
 一方、高齢者といっても、農業や漁業の従事者、職人・専門職と会社等の勤労者では雇用面で大きな違いがあり、また、地域社会(コミュニティ)の様相も、都市部と農村漁村部では違いがある。
 このように、わが国では高齢社会、人口減少社会といってもそのあり方は、一様ではなく、都市自治体によって大きく異なる。
 人口減少社会は負の部分だけではない。人口減少によって、過密の問題が緩和され、ゆとりある国土利用が可能となるという面もある。都市部と農村部を一体化したまちづくりの仕組みの検討や担い手の不足する地方へ都市部からの移住を促進することが必要である。
 また、地域社会においては、高齢者の単身世帯の増加と孤独死、子育ての相談相手がなくしつけ方が分からない親による育児放棄や児童虐待など、各家庭の孤立を背景とする問題が顕在化している。生活基盤・経済基盤が弱いままでは、子どもを授かっても育児放棄や児童虐待、非行や少年犯罪につながってしまうおそれがある。
 「多世代交流・共生の取組」は、全体として人口が減少していく中においても、すべての人が安心して暮らし続けられる明るい地域社会(コミュニティ)をいかにして形成していくべきかを模索するものである。平成26 年度、全国市長会が出生率の高い都市自治体に対して行った調査では、出生率が高い要因は、@地域コミュニティの充実、A育児支援が受けられる親族や友人・知人の存在、B子どもの成長に対する地域社会の高い関心、が挙げられている。問題は人口減少そのものではなく、その中でいかに世代間のバランスを取り、地域社会(コミュニティ)で市民が支えあう仕組みをいかに育てていくかにある。
 以上の認識に立って、国と地方が取り組むべき課題と役割について、次のとおり提言を行う。

T 多世代交流・共生のための国の役割と責任
多世代交流・共生社会の実現に向けて、国は現行の枠組みを抜本的に見直すべきである。
1 人口減少社会における多世代交流・共生のビジョンを提示すること。
・国は、地域社会(コミュニティ)で多世代が交流・共生できるよう、年少者・子育て世代・高齢者に対する縦割り区分の対策ではなく、それぞれの社会福祉施策、産業雇用施策、住宅施策等を連携させ、相乗効果の上がるような制度や予算の枠組みを再構築することが必要である。
・国は、そのための枠組みや近未来(2040 年や2060 年など)のビジョンを府省庁の枠を超えて提示すべきである。

2 多世代交流・共生のための総合的なサービス提供の仕組みをつくること。
(1)包括的な福祉施策や地域の実情を考慮した総合的なサービス提供の仕組みをつくること。
・多世代交流・共生のためには、法令や条例、補助金や予算、資格や制度、施設や設備などの整備、運用に際しては、サービスの相手である市民の視点、ユーザーの目線で考えることが肝要である。子育ての時期と親の介護の時期が重なる「ダブルケア(育児と介護の同時進行)」の問題などが顕在化しているため、「高齢者」「児童」といった分野を問わない包括的な福祉施策や、地域の実情を考慮した総合的なサービス提供の仕組みづくりが求められる。
(2)施設整備基準や人員配置基準等を早急に見直すこと。
・国においては、包括的・総合的な福祉サービスの提供が可能となるよう、施設整備基準や人員配置基準等を早急に見直すべきである。

3 多世代交流・共生に取り組むことができる地域社会の仕組みをつくること。
(1)圏域の整合性確保に取り組むこと。
・まちづくり、児童福祉、高齢者福祉、医療、防災などに関する国の政策とそれに基づく圏域の連携が取れておらず、圏域が異なることで、地域社会(コミュニティ)における連携が難しいという状況が生じている。このため、多世代交流・共生に取り組むことができる圏域の整合性確保に国として取り組むことが必要である。
(2)国庫補助金返還免除制度の拡充を行うこと。
・世代を超えた横断的な活動を支援するためには交流を行う施設の整備が有効であり、こうした交流施設の整備に当たっては、既存施設の活用が有効と考えられる。小中学校の廃校舎や空き教室を活用したり、子育て施設の介護施設への転用などが柔軟にできるよう、国庫補助金返還免除制度の拡充を行うことが必要である。
(3)まちづくりに携わる当事者・関係者が協働する「場」の指針の策定と支援を行うこと。
・多世代交流・共生の視点からは、まちづくりに携わる市民が関与する機会や仕組みを充実するため、まちづくりに携わる当事者・関係者が協働する「場」が必要である。また、地域における若者や高齢者の雇用の確保、自活支援のための民間企業や社会的事業体との協働も求められる。国として、こうした多世代の人々が協働する取組に対する指針の策定と支援を行うべきである。
(4)クラウドファンディングのコーディネーター制度の充実等を行うこと。
・コミュニティビジネスの起業・創業と経営を経験と資金で支えるために市民や金融機関が「責任ある投資」行為を行うことができる条件整備、さらには多世代の方が貯蓄を地域社会(コミュニティ)のために活用する仕組み(クラウドファンディング)を安全・安心に導くコーディネーター制度の充実等を、国として行うべきである。

4 地域社会の発展につながる住環境政策への取組を推進すること〜多世代交流・共生を支援する住宅政策の検討、地方への住み替え支援の検討〜。
・住宅所有者が住環境の整備やまちづくりに参画する仕組みがあれば、おのずと住民が集まり、知り合うきっかけが生まれ、コミュニティとしての成長が期待できる。多世代が入居するマンションに対して容積率を緩和することによりその誘導をしたり、マンション1階へ店舗を併設することを誘導することも国として検討すべきである。
・「マイホーム」「持ち家」にこだわらなければ、ライフステージとその地域の行政サービスの「質と量」に応じた「住み替え」という考え方もある。「高齢者の地方移住」に限らず、例えば「子育て世代に対する住宅支援」もある。国として、こうした地方への住み替えを支援すべきである。

5 都市部と農山漁村部の一体整備と交流を推進すること。
(1)都市自治体が総合的な土地利用を行うための法整備を検討すること。
・人口減少社会においては、都市部と農村部を一体的に考えることにより、コンパクトな都市構造への転換や農業を含めて産業の高付加価値化、農村の活性化を図ることが必要となっている。そのためにも、本来、都市と農村は一元的で包括的な法体系の下にあるべきであり、重層的で複雑なわが国の土地利用に係る法体系を都市自治体が一元的な主体として総合的かつ計画的に行うことができるよう、都市計画法、建築基準法、景観法、農地法、農業振興地域の整備に関する法律、森林法等の全面改正と、新たな統一的な「都市農村計画法(仮称)」の制定が望まれる。
(2)都市部と農山漁村部の交流の推進を支援すること。
・多世代交流・共生を進めるためには、都市部と農山漁村部の交流も重要である。農林漁家民宿や農林漁家民泊を通じて、地域間の多世代交流へと広がり、地域間で共生する意義が住民間にも浸透し共有される。国としても若者の体験交流(学習)事業や農林漁家民泊など都市部と農山漁村部の交流に資する施策を積極的に支援すべきである。

U 多世代交流・共生のための都市自治体の役割と責任
われわれ都市自治体は、多世代交流・共生についてそれぞれの地域の実情に応じて積極的に次のことに取り組む。
1 多世代交流・共生への取組の基本的視点〜暮らしやすい地域をつくる、活躍しやすい地域をつくる〜。
・多世代交流・共生の促進のためには、一つには多世代が「暮らしやすい地域をつくる」視点が必要であり、もう一つは多世代が「活躍しやすい地域をつくる」視点が必要である。
・多世代が「暮らしやすい地域をつくる」視点では、各地域で自主的に活動に取り組んでいる住民自治組織に主体的にまちづくりを考えてもらうことが有効である。
・多世代が「活躍しやすい地域をつくる」視点では、地域を超えた市民活動の活性化、協働あるいはNPO化を図ることで、若者や女性が起業しやすくするなど、潜在的な力を発揮してもらうことが有効である。

2 多世代交流・共生のための総合的なサービス提供の仕組みをつくること。
(1)包括的な福祉施策や地域の実情を考慮した総合的なサービス提供を行うこと。
・多世代交流・共生のためには、都市自治体においても、法令や条例、補助金や予算、資格や制度、施設や設備などの整備、運用に際して、サービスの相手である市民の視点、ユーザーの目線で考えることが肝要である。「高齢者」「児童」「障害者」といった分野を問わない包括的な福祉施策や、地域の実情を考慮した総合的なサービス提供が求められる。
(2)圏域の整合性確保に取り組むこと。
・地域の住民自治組織は必ずしも一つではなく、さらにその圏域は、まちづくり、児童福祉、高齢者福祉、医療、防災、学校など、それぞれ異なっている場合が多いが、都市自治体としても、サービスを提供するのにふさわしい「サービス圏域」を念頭に置き、圏域の整合性確保に取り組むことが必要である。
(3)福祉施策に関する情報を共有すること。
・子ども・子育て支援、児童自立支援、高齢者支援、生活困窮者自立支援、障害者支援といった福祉施策に関する情報が地域の中で共有でき、包摂的な体制となるような仕組みが必要である。
(4)育児と介護の両立を支援する仕組みに取り組むこと。
・育児や介護に関する支援制度が整備され、それぞれの専門家が育成されてはいるが、ダブルケアの問題も考慮に入れて、都市自治体としても、育児と介護の両立を支援する仕組みに取り組むことが必要である。

3 多世代交流・共生に取り組むことができる地域社会の仕組みをつくること。
(1)市民が早い段階から主体的に計画に参加するシステムづくりを行うこと。
・まちづくりに市民が関与する機会や仕組みが乏しく、地域の道路や公園、集会施設の整備・メンテナンスや景観協定など、できるだけ、多世代の市民が早い段階から主体的に計画に参加するシステムづくりが求められる。
(2)まちづくりに携わる当事者・関係者が協働する「場」づくりを行うこと。
・地域の生活課題の解決に向けて、住民だけではなく、まちづくりに携わる当事者・関係者が協働する「場」が必要である。
(3)様々な仕組みで住民自治組織づくりを進めること。
・全国各地で取組が進められている協議会型住民自治組織は、住民の自発性を重視した取組であり、多世代交流・共生の取組を進めるうえで有効である。
・住民自治組織づくりの手法として、自治会に予算を枠配分し、地域主体の事業については地域住民自身に執行管理を任せる、あるいは地域住民の側から市に対してプレゼンテーションをし、資金提供を求めるなど、市の事業に地域として参画・提案することは住民同士が協議し、コミュニケーションを図ることにつながる。様々な仕組みで住民自治組織づくりを進めていく必要がある。
(4)多世代交流・共生の活動拠点の整備を進めること。
・「多世代交流・共生の活動拠点」として利用する施設を整備している自治体も多い。様々な交流活動を行うことができる施設の整備は大変有効である。多世代交流・共生の活動拠点の運営に当たっては、利用者の視点で幅広い活用が可能となるよう配慮すべきである。
(5)持続可能なまちづくり、地域経済を維持していくための諸施策を実施すること。
・持続可能な形でまちづくりを行い、地域経済を維持していくためにはコミュニティビジネスなど産業や人材の育成、資金調達の仕組みづくりや地域内外のネットワークづくりが必要である。
(6)「多世代交流カフェ」を設置すること。
・多世代交流・共生の促進のためには、多世代が普段から集まり、自然に語り合うことができる「多世代交流カフェ」の設置が有効と考えられる。「親世代・私世代・孫世代」が話せる井戸端会議のようなものは、ダブルケアを含めてそれぞれの世代の持つノウハウとマンパワーを相互に活用するきっかけとなる。
(7)空き家を有効活用すること。
・多世代交流・共生にとって空き家問題への対応は有意義である。まちづくりとの連携も肝要であり、都市自治体としても総合的な視点を持って対応を図っていくべきである。

4 地域社会を担う人材を発掘、育成すること。
(1)大学等と連携してまちづくりの専門家を養成すること。
・まちづくりの担い手を育成するため、住民自治組織と連携して、住民を対象としたセミナー等を開催している自治体は多い。また、市域内の大学等と連携して、まちづくりの専門家を養成し、卒業生が地域社会(コミュニティ)のキーパーソンとなっている自治体もある。大学等と連携して、卒業生の地元定着に取り組むことが効果的である。
(2)住民自治組織に若い世代が参加するきっかけをつくること。
・自治会・町内会加入率が低下している自治体も多く、その運営面でもリーダーが高齢者に偏るなど課題を抱えている自治体も少なくない。このようなことから、地域の協議会と小中学校のPTAが協力・協働する仕組みを導入するなど、若い子育て世代が参加するきっかけが必要である。
(3)地域の資源や伝統文化を学ぶ機会をつくること。
・地域社会は、そこに住む人々が「お互い様」といわれる支え合い(相互扶助)の役割を果たすことで成り立っている。それは子どものころから自らまちの現状の学びを深め、まちをもっとよく知っていくことによって培われていくものである。人々が地域の資源や伝統文化を学ぶことを通じて、地域のアイデンティティや地域社会の一員であることを認識してもらう取組が必要である。

5 都市自治体職員への期待
(1)地域の一員としての視点からも物事を考えること。
・政策やまちづくりのプランナーである都市自治体職員は、同じ地域に暮らす住民として、地域の一員としての視点からも物事を考えることが大切である。
・都市自治体職員には、地域のコミュニティ活動への理解や参加を通じ、コミュニティ活動の一員となって、「市民を励まし、市民の背中を後押し」する意識と行動が期待される。
(2)地域社会における多様な主体をコーディネートすること。
・多世代交流・共生の進展のためには、都市自治体の全部課・全職員が、市民や多様な主体と目標を共有し、協働するという意識を持つことが重要であり、地域社会における多様な主体をコーディネートしていく役割が期待される。
(3)専門分化している事業を総合化すること。
・時間軸でプロジェクトを整理した「ロードマップ」、市域又は圏域という空間上で事業を整理した「エリアマップ」、各事業に参画するプレイヤーと役割分担を整理した「ステイクホルダーマップ」をつくって、専門分化している事業を総合化してみることより、意識の変革を図ることが効果的である。
第86回全国市長会議