第84回全国市長会議 決議

東京電力福島第一原子力発電所事故への
対応と原子力安全対策等に関する決議


 東京電力福島第一原子力発電所事故から3年以上が経過したにもかかわらず、今なお、多くの住民が放射線の健康影響等に関する不安、長期にわたる避難生活など、困難な状況に置かれている。
 事故発生からこれまでの間、国は、除染の推進、賠償や避難者への生活支援、廃炉・汚染水対策など原発事故の早期収束へ向けて取り組んでいるが、多くの課題は抜本的な解決には至っていない。
 この間、都市自治体においても、除染対策をはじめ多岐にわたる施策に全力で取り組んでいるが、本来、原子力政策は、国のエネルギー政策の一環として推進されてきたものであることから、国は、原発事故の早期収束へ向け、事業者と一体となって総合的かつ全面的な責任のもとに全力で取り組まなければならない。
 また、国においては、「原子力災害による影響を受けた地域」とのイメージから生じる風評について、国内外に対する放射線に関する正しい知識の普及啓発やモニタリング情報の公開等により、被害の未然防止に万全を尽くすべきである。
 よって、原発事故の早期収束と完全な賠償、そして放射性物質による国民・住民生活に対する影響への対応、原子力安全・防災対策の充実、汚染水対策の着実な推進、さらには、中・長期的なエネルギー政策の構築等、下記事項について国の責任と財政負担により、万全の措置を講じるよう強く要請する。



1.東京電力福島第一原子力発電所事故への対応について
(1)原発事故に関する対応への財政措置等について
@ 原発事故に伴う損耗残価率の適用により大幅減収となった固定資産税や都市計画税など、税収の減収分について財政措置を講じること。
A 普通交付税における地域の元気創造事業費の算定(市町村分)については、農業産出額を算定指標としているが、原発事故被災地では、農業産出額の伸び率が期待できないことから、特殊事情を考慮した算定を行うこと。
(2)放射性物質の除染対策について
@ 放射性物質で汚染された農林業系副産物等の廃棄物、土壌、焼却灰等の管理・中間処理・最終処分などの処理のプロセス及び中間貯蔵施設・最終処分場の設置等について、国が主体的に責任を持って住民に説明するとともに、基準を超える廃棄物の処理及び必要な施設の設置について、国が迅速に責任を持って対応すること。また、基準値内の一般廃棄物についても、指定廃棄物と一体的な処理を国が責任をもって行うこと。
A 農林業系汚染廃棄物の処理加速化事業をその処理が終了するまで継続するとともに、これらの減容化施設については、国と県が連携し、必要性や安全性に関する説明を行い、計画地域の理解を得ること。
B 地域の除染を迅速に進めるため、除染方法に関する協議を簡素化し、除染実施者である市町村が現場の状況に応じた除染方法や手順を速やかにかつ柔軟に選択することができるよう運用を見直し、除染にかかる経費の対象範囲を拡充すること。また、除染経費について実態に即した標準単価を設定するとともに、国が全額を負担すること。
C 効果が低かった場合や再汚染した場合など、繰り返し除染を実施した場合の経費についても財政措置を講じるとともに、対応策を確立すること。
D 新たな除染手法・技術を検証し、より有効な手法は積極的に採用するなど随時「除染関係ガイドライン」を見直し、国が費用負担する除染に係る経費対象として認めること。また、都市自治体の実施する除染作業は人員確保に苦慮していることから、委託基準について特段の配慮を講じること。
E 都市自治体が必要と認めるホットスポット(低線量の地域の中で局所的に線量が高い箇所等)対策について財政措置を講じること。
F 大規模事業所(ゴルフ場等)に係る除染について具体的な手法を確立するとともに、国の責任において除染すること。
G 河川等における除染については、国の責任において対策等の方針を示すとともに、適切な措置が講じられるまでの間、適切な測定ポイントを選定の上、空間放射線量の測定を実施し、その結果を公表するなど十分な情報提供を行うこと。
H 果樹の放射性物質対策である改植事業については、表土除染と一体的に行うこと。
I 大気、海水、農地、農林水産物などに対する放射線モニタリング体制の強化を図るとともに、住民の冷静な行動を促す適切な情報伝達体制を構築すること。
(3)汚染水対策について
福島第一原子力発電所の汚染水対策については、国が主体的に取り組み、実効性のある地下水対策、汚染水流出阻止及び風評被害防止に関する措置を可及的速やかに実施すること。
(4)原発事故に伴う損害賠償の適正な実施及び迅速化について
@ 原子力損害の賠償に関する法律第3条に基づく各被災自治体による損害賠償請求については、原子力損害賠償紛争審査会の中間指針に基づき完全賠償を実施するとともに、県境で区別することなく適切な損害賠償・費用負担を行うよう東京電力に対し強く指導すること。
A 被災者に対する総合的かつ継続的な相談体制の確保を図るため、国及び東京電力が主体となり、各種窓口を一元化するとともに、総合的な判断ができる総括責任者を常駐させること。
B 被災者が公平に賠償を受けられるよう原子力損害賠償紛争解決センターが行っている和解仲介等のこれまでの事例を基に、原子力損害賠償紛争審査会の中間指針の賠償基準を明確にすること。
C 原発事故により風評被害を受けた観光業者及び商工業者や、農林水産物の出荷制限や風評被害など全ての損害について、迅速かつ適正な賠償を行うよう東京電力に対し強く指導すること。また、農林水産業の廃業に伴って不要となる施設、機械設備の賠償方針を早期に示すよう指導すること。
D 住民や企業等が自ら行った除染費用については、全額賠償するよう東京電力に対し強く指導すること。
E 国は、住民が放射能による不安や精神的苦痛を抱えたまま生活を余儀なくされている現状を受け止め、平成24 年9月以降の精神的損害に対して,迅速かつ誠実に賠償がなされるよう、東京電力に対し強く指導すること。
F 旧屋内退避区域と旧緊急時避難準備区域における避難指示区域解除後の賠償期間の公平な取扱いを行うとともに、旧屋内退避区域に係る財物賠償について速やかに対応すること。
(5)食品等の安全確保対策への支援について
@ 米の全量全袋検査に要する経費については、引き続き震災復興特別交付税により措置するなど十分な財政措置を講じること。
A カリ肥料等放射性物質吸収抑制資材の散布に係る費用については、震災復興特別交付税等により十分な財政措置を講じるとともに、その運用に当たっては、地域の実情に十分配慮すること。
B モニタリング体制の維持・充実を図りながら、農林水産物等に係る放射性物質検査体制の充実や積極的なPRなど、地域と連携した取組を推進すること。
 また、住民の食品に対する不安を払拭するため、国の責任において、きめ細かな説明を住民に対して行うこと。
C 山菜・野生きのこ類の出荷が可能となるよう、具体の取組について指導支援すること。科学的知見をもって、放射性セシウムの移行メカニズムを明らかにし、出荷の見通しを立てられるようにすること。
(6)医師確保対策等について
@ 原発被災地へ不足する医師・看護師等の医療スタッフを配置するとともに、原発事故に伴い避難等指定区域以外の地域でも、医師、検査技師、看護師等の医療従事者の流出による人手不足が深刻化していることから、これら医療従事者の確保については、国の施策により早急に対策を講じること。また、私的病院の医療体制の確保を図るため、所要の財政措置を講じること。
A 医療機関の甲状腺検査に関する人材育成、機器整備等に対する支援を行うこと。
(7)住民の健康確保について
@ 全国に避難している住民も含めた内部被ばく検査環境の整備を早急に進めるとともに、ホールボディカウンターの購入費用など内部被ばく検査に係る経費及び長期的な健康管理に要する全ての費用について十分な財政措置を講じること。また、これら対策の実現に当たっては、関係自治体への説明及び意見交換を早急に行うこと。
A 「子ども被災者支援法」の基本方針において定められた支援施策を推進するとともに、同方針における支援対象地域、準支援対象地域について、同法に定める一定基準以上の放射線量が計測された地域の基準を、合理的に説明できるものにすること。
B 子どもたちの発達段階ごとに生じる疾患に対する医療と研究を推進し、長期的な健康管理体制を確保するため、病院施設・研究所・健康増進センター等の機能を複合化した総合小児医療センターを整備すること。また、学校において体系的な放射線教育を実施すること。
C 甲状腺検査について、検査結果の客観的妥当性を確保する必要があることから、全国規模の詳細な比較調査を実施すること。
D 全国民に対し、放射能及びその健康に及ぼす影響に関する正しい知識を啓発すること。
E 原子力災害による放射線に対する健康不安の解消や避難者の早期帰還を促進するため、学校施設における空調設備の整備に対する財政措置を充実すること。
F 原発事故に起因する病気の早期発見のため、特定健康診査及びがん検診などの市民検診の枠組みをなくし、年齢にかかわらず全ての住民に速やかに健康診断を実施できるよう特別の法制化、検診実施体制の整備・支援、各保険者の財政負担の軽減を図ること。
G 安定ヨウ素剤の配備及び服用方法について、事故検証を踏まえ、実効性のある対策の明確な方針を示し、都市自治体の取組に対し積極的に協力すること。
 また、服用に係る免責制度や患者の補償制度を創設すること。
(8)自主避難者等に対する生活再建支援について
@ 避難者受入市町村の負担が生じないよう、受入に伴い生じている特例事務以外の行政サービスについても十分な財政措置を講じること。
A 復興公営住宅の整備に当っては、入居者の視点から的確なニーズを捉え、実情に応じた財政措置を講じること。また、高齢者に対する介護施設等の整備、介護サービスの提供について十分な対策を講じること。
(9)風評被害対策及び産業の流出防止対策の充実について
@ 消費者の安全で安心な消費生活の実現を図るため、地方消費者行政活性化交付金の必要額を確保すること。また、国内外に対し放射線に関する正しい知識の啓発及び風評被害払拭に向けた積極的な広報を行うこと。
A 風評被害払拭のため、広報等に対する支援、国内外からの観光誘客や大規模な国際会議等の開催・誘致等幅広い施策を講じること。
B 風評被害も含めあらゆる分野において厳しい状況が続いていることから、地域経済の活性化と安定した雇用の創出を図るため、新たな企業誘致に繋がる工業団地整備に対する財政措置を講じること。
C 観光誘客を推進するため、観光道路の整備をはじめ各種施策等に要する費用について、財政措置を講じること。
D ほだ場の除染によって発生する落葉層の処理を迅速に行い、しいたけ生産サイクルの回復と経営再建のための支援制度を創設すること。
E 被災地においては、野生鳥獣の捕獲活動が低下したこと等により、イノシシ等の鳥獣による農林作物被害が拡大していることから、地域における侵入防止柵等の鳥獣被害防止の取組に対し財政措置を講じること。

2.原子力安全・防災対策の充実について
(1)原発事故の徹底した検証に基づく原子力発電所の安全性の確保について東京電力福島第一原子力発電所事故の徹底した検証に基づき、いかなる場合においても原子力発電所の安全が確保できるよう万全の対策を講じるとともに、新たな規制基準に基づく適合評価について、厳格なる審査の下、結果を分かりやすく説明すること。
 また、新規制基準については、不断の改善に必要な科学的知見の整備・蓄積を行い、更なる高度化を図ること。
(2)原子力防災体制の充実強化について
@ 原子力関係施設に対する地震・津波対策など新たな規制基準を厳格に適用することはもとより、各種防護対策の具体的な内容やプルーム通過時の被ばくを避けるための防護措置を実施する地域(PPA)についての検討結果を早急に示すなど、万全な防災対策を構築すること。また、原子力発電所に関する情報提供と説明責任を果たし、周辺住民や自治体の不安解消に努めること。
A 原子力災害対策指針における30km 圏外の地域に対する原子力防災指針の見直しに当たっては、原子力防災対策の基準や対策の具体的内容を速やかに明らかにするとともに、対策実施段階での具体的な手順や方法を提示し、対策に要する費用について十分な財政措置を講じること。
B 地域防災計画(原子力災害対策編)及び広域避難計画の実効性を高めるため、国は、原子力防災対策指針における未解決課題の方針を示すとともに、住民等の広域避難に係る避難先や避難ルートの決定、住民等の避難手段の確保に必要な調整など都市自治体だけでは解決が困難な課題について、国・県等が連携して支援すること。さらに、原子力防災対策の拡充強化に伴う財源を確実に措置し、速やかな事業実施に配慮すること。
C 住民の安全・安心確保のため、モニタリングポストや放射線測定装置、原子力防災機材等の増設・整備を適切に行うこと。
D 原子力発電所に隣接する都市自治体等においては、今後の原子力防災対策に多大な経費が必要になることから、適切な財政措置を講じること。
E 原子力施設の安全確保及び防災対策上における「安全協定」の位置付けを明確にすること。

3.中長期的なエネルギー政策について
地球環境の保全と国民の安全・安心の確保や産業活動の発展を前提に、効率的・安定的な電力供給の確保等を図るため、中・長期的なエネルギー政策のあり方について国民的議論を尽くした上で必要な措置を講じること。


以上決議する。

平成 26 年6月4日

第84回全国市長会議