第83回全国市長会議 決議 |
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東日本大震災からの復旧・復興に関する決議 |
東日本大震災から2年余りが経過した。この間、被災自治体の懸命の復旧・復興に向けた努力はもとより、全国の自治体からの人的・物的支援と連携により、被災地の復旧・復興が着実に進んできたところである。
しかし、ライフライン・公共施設等の復旧や耐震化の推進、住民の集団移転や被災者の生活再建への対応、農林水産業や被災企業への再生支援など未だ多くの課題が山積している。 加えて、復旧から復興へと段階が進むなかで、新たな課題が次々と生じ、被災自治体はそれらへの対応を迫られている。 国においては、これまでも数次に亘る復興交付金の交付や関連法の制定など様々な支援策を講じてきているが、被災した自治体において、地域の実情に応じた被災者の生活再建や地域の復興に向けた取組みを加速していくためにも、予算や制度の拡充・強化を始めとして、復興に係る各種作成資料や国等との協議の簡素化、土地利用に係る許可等の緩和措置、制度の柔軟な運用等のさらなる取組み等が必要である。 よって、国は、被災地の一日も早い復旧・復興の実現に向けて、住民、被災自治体及び人的・物的支援や避難者支援を行う自治体に対し、下記事項について迅速かつ万全の措置を講じるよう強く要請する。 |
記 |
1.復旧・復興事業の実態に即した支援等について (1)東日本大震災復興交付金について、必要な財源を確保するとともに、被災地の現状に照らし、5年間となっている事業期間を延伸することはもとより、交付金事業計画について地域ごとの実情を十分に配慮の上、早期に幅広く採択するとともに、被災自治体が提案する復興に必要な事業を基幹事業に追加する等、被災自治体の意見を踏まえた一層の柔軟な運用を行うこと。 (2)災害復旧事業並びに震災復興事業に係る震災復興特別交付税等の地方財政措置を、復興事業が完了するまでの間、継続的に講じること。 (3)普通交付税の減額や税制改革に伴う財政への影響は、被災自治体にとって非常に大きいものであるため、被災地の特殊事情を考慮した財政支援措置の拡充を図ること。 (4)震災被害による移転跡地について、居住系から非居住系に土地利用の転換を図らざるを得ない状況にあり、早期復興を実現するため、移転跡地整備に関する新たな支援制度を構築すること。 (5)内陸部において、津波被害地域の堤防建設事業等に使用される土砂を運搬する大型車両の通行量の増加により破損した市道等の路面復旧費や土砂採取周辺住民対策費について財政支援を実施すること。また、震災復旧工事に伴う土砂採取情報(採取場所・期間、大型車両の運行経路等)を関係自治体に事前に情報提供すること。 (6)震災による行方不明者について、復旧が進まず浸水したままの地区においては、今後も捜索活動を継続すること。併せて、身元不明者についても、引続きDNA鑑定や似顔絵を公表することで、早期判明に努めること。 (7)農業相続人に課せられる農地等の相続税について、復興事業を早期に進めるため、一定の条件下で猶予される相続税の免除要件を緩和する措置を講じること。 (8)やむを得ず年度内に完了しない繰越明許事業については、平成 23年度補正予算で措置された事業に限らず、事故繰越しの承認手続きに おいて、繰越事由の一本化や提出書類の削減、複数回の承認などの措 置を講じること。 (9)資材費や人件費の高騰などにより増額した経費に対する地方負担の軽減策として、既存の補助制度の拡充や新たな財政支援制度を構築すること。また、技術者不足による入札不調に対応するため、技術者の専任を必要とする建設工事の対象金額を拡大する措置を講じること。 (10)防災集団移転促進事業に係る移転促進区域内の土地の買取について、墓地、寺院、集会所、山林等の買取対象外の土地が点在し、買取後の一体的な土地利用計画を検討する上で支障となっていることから、移転促進区域内については、全ての土地を買取できるよう事業の弾力的な運用を可能とすること。また、すべての土地を買取できない場合は、防災集団移転促進事業で取得した土地と買取できない土地との交換を可能とすること。 (11)市町村の復興計画に基づく鉄道敷のかさ上げ等、鉄道復旧に関わるまちづくり事業について、市町村に負担が生じないよう財政支援措置を拡充すること。 (12)震災による家屋解体撤去は、震災後3年以内に完了するよう国の方針が示されているが、未だ解体できない家屋が残っていることから、移転先地の整備完了まで撤去期限の延長を認めること。 (13)被災地における復興を推進するため、復興に係る計画策定や交付金申請等における資料作成や国等との協議の簡素化、土地利用に係る許 可や要件の緩和措置を講じること。 2.被災者の生活再建支援等について (1)東日本大震災特別家賃低減事業期間は、災害公営住宅等の管理開始後 10 年間とされているが、被災した低所得者が 10 年後から支払う家賃が増えることは大きな負担であることから、事業期間を延長すること。また、5年後から地方公共団体の負担割合が増えるとされているが、5年以降も負担割合を据え置くこと。 (2)住まいの再建、生業の再生など、未だ多くの課題を抱え、市民生活は厳しい状況が続いている中、消費税率の引上げは被災者・事業者等の大きな負担となることから、防災集団移転促進事業等により住宅再建に取り組む際には増税前後で不公平が生じないよう引上げ前の税率を適用するなど、被災地の実情に配慮した特例措置を創設すること。 (3)震災以降の心のケアが必要な児童生徒に対して、よりきめ細かな教育を実現し、豊かな教育環境を整備するため、弾力的な学級編制が可能となるよう復興加配教員等の継続した配置を図ること。また、震災によるPTSDを要する児童・生徒への対応など、多様化・複雑化する児童生徒への対応を充実させるため、教諭はもとより養護教諭や栄養教諭も含めた加配の充実を図るとともに、緊急スクールカウンセラー等派遣事業を継続実施すること。 (4)被災児童生徒就学支援等臨時特例交付金を活用した就学援助費による通学補助制度について、学校の移転整備が完了するまでの間、支援を継続すること。 (5)災害援護資金貸付制度について、国において確実な予算の確保に努め、津波により住家全体が流出した場合など被害が甚大な世帯に対する貸付限度額の引上げなど制度の拡充を図ること。また、住家への被害がなく家財被害のみの貸付については必要性が薄れていることから、申請期限の短縮について検討すること。 さらに、小規模個人再生手続等により債務者の償還額が減額となる場合、市町村の負担が生じないよう措置を講じること。 (6)被災者生活再建支援制度について、津波により住家全体が流失した世帯など、住家被害が甚大な場合は特段の支援が必要であることから世帯要件の緩和や付帯施設等への適用対象の拡大等制度の拡充を図ること。 (7)被災者の孤立防止のための見守りやコミュニティづくり、心のケアを含む健康支援など、生活再建に向けた各種支援施策を被災自治体や被災者を支援する団体等が継続的、安定的に実施できるよう、「地域支え合い体制づくり事業」をはじめ、必要かつ十分な財政支援を長期的に行うこと。 (8)被災した医療機関の一日も早い再建や常勤医師の地域的偏在の是正に向けた取組みを強化し、地域住民が安心して暮らせるよう医療環境の充実を図ること。 (9)被災地においては、介護職員の求職者数が低調で、地域内での介護サービスに要する職員の確保が極めて難しい状況にあるほか、被災地の居住・生活基盤が整わない中、他地域からの介護職員の就業も困難な状況となっていることから、被災地に配慮した介護職員確保対策について財政支援を行うこと。 (10)被災者の生活再建を支援する国民健康保険、後期高齢者医療及び介護保険の一部負担金等免除措置について、被災自治体の保険財政が逼迫することなく実施できるよう、国の責任において全額財政支援措置を講じるとともに、平成 24 年 10月以降の自治体負担分についても、遡及して全額補填を実施すること。併せて、被災地の保険者が震災の影響による保険財政の逼迫を招くことなく、円滑かつ健全な制度運営ができるよう、必要かつ十分な財政措置を講じること。 (11)災害公営住宅(戸建住宅)について、東日本大震災復興特別区域法により建設から5年経過すると払下げが可能となるが、払下げを受けずに退去する居住者が増加した場合、空家が多数発生することが懸念されることから、譲渡価格の引下げなどの緩和措置を講じること。 3.東日本大震災にかかる被災地・避難者支援について (1)避難者が安心して避難先での生活を送れるよう、避難者の現状及びニーズを把握し、被災県などと連携を取りながら適切な措置を講じること。 (2)避難者が今後の進路を決断できるような個々具体的な相談ができる体制を国の責任において、避難先地域で構築すること。 (3)避難先における十分な支援を継続するため、避難者受入市町村の負担が生じないよう、十分な財政措置を講じること。 (4)大規模災害時における自治体、関係機関・団体による迅速で広域的 な官民連携の支援体制を図り、被災地を積極的に支援できるよう、責任・権限・財源を踏まえた広域災害復旧復興支援に係る制度設計を講じること。 (5)復興事業の実施にあたり、現在、全国の地方自治体からの派遣職員が復興業務に携っており、増大する業務量への対応を図るため、復興を遂げるまでの間、被災市町村への職員派遣について必要な措置を講じること。 (6)職員派遣に係る調整事務や自治体元職員の採用事務等について負担が大きいことから、これらを国又は県が行う枠組みを創設すること。 (7)東日本大震災からの復興に向けて、国が要請する災害廃棄物の広域処理について、安全性に関する説明責任を十分果たすなど支援体制の充実に努めること。 4.地域産業の復興・再生に対する支援について (1)中小企業等グループ施設等復旧整備補助事業(グループ補助金)に ついて、使い勝手の向上とそれに伴う利用企業のすそ野を拡大するため、復興を目指す中小企業者が単独でも申請できるよう制度の拡充を図ること。 (2)東北地方の高速道路の利用料の減免及び旅客事業者への補助等の観光振興に係る支援措置を実施すること。 (3)既存のインターチェンジを活用し、安定した雇用の確保や企業の受け皿としての拠点づくりを図るため、既存インターチェンジ周辺の整備・開発のための土地利用に係る規制緩和及び財政措置を講じること。 (4)津波等により著しい被害を受けた地域において、単なる現況への復旧にとどまらず、より生産性が高く成長力のある先進的な農業の形態を構築するため、新たに必要となる農業用機械、農業用施設等の整備について、被災地の実情に合わせて真に使い勝手のよい制度とすること。 (5)震災以降人口流出が進み、地域活力の低下が懸念されている海浜エリアに人を呼び戻し、地域の再活性化を図るため、海浜公園やサイクルロード等の整備等、海浜エリアの環境整備にかかる制度を創設すること。 5.公共施設等の復旧支援について (1)漁業集落防災機能強化事業による民有地の嵩上げ及びレベル2津波に対する孤立世帯防止のための避難道の整備等事業制度の拡充を講じること。 (2)既存水道管の撤去費用について、財政支援の対象となるよう制度の 拡充を図ること。 また、水道施設の再構築について、国庫補助制度を創設し補助対象とするとともに、水道施設の耐震化に対する国庫補助要件を緩和し、補助率の嵩上げを行うこと。 (3)地域の安全性を確保し、更なる復興を図るため、高度経済成長期に整備した公共施設の老朽化が進んでいることを踏まえ、市民の安全・安心な生活に直結する上下水道施設や、道路・橋梁・砂防ダム等の公共施設の維持補修、改修工事、撤去にかかる費用について財政支援措置を拡充すること。 (4)消防防災施設・設備等の復旧に関し、消防防災施設・設備災害復旧 費補助金及び地方交付税措置等、長期的な財政措置を講じること。 (5)被災地が公共施設等の再建を確実に行えるよう、緊急防災・減災事業債を継続し、最優先に被災地に配分すること。 (6)公立社会教育施設について、災害復旧完了までに係る財政措置を講じること。 また、災害復旧への支援は現状復旧が原則であるが、昨今の住民ニーズ等と機能や構造等に差異があることから、これらの取扱いについて柔軟に対応すること。 (7)公共施設の耐震化を早期に完了するため補助制度のなお一層の充実を図ること。 (8)平成 27 年度までの地震防災対策特別措置法の改正がなされたが、Is値の数値の大小に関わらず耐震補強工事対象の建物全てについて同様の補助率の維持、予算措置をするとともに、補助金の算定に当たっては、実際の工事費と遜色ないよう、単価の補正(特別加算)措置を講じること。 (9)耐震化が必要な公立保育所について、耐震診断及び耐震化工事についての補助要件を緩和するなど、抜本的な見直しを図るとともに、平成25 年度実施分から遡及して適用するといった柔軟な対応をすること。また、私立保育所についても公立保育所と同様に耐震診断に係る経費についての補助制度を適用すること。 (10)学校の高台移転に際し、防災機能や省エネ・創エネ施設を兼ね備えた施設の整備や、学校統合による通学路変更に伴う通学路設置・通学バス・歩道拡幅及び防護柵等の設置を行う必要があることから、必要な財政措置を講じること。 6.鉄道・道路・港湾等の整備促進について (1)鉄道の復旧に向けて、まちづくりとの調整や復旧費用の負担などの課題を速やかに解決し、復旧を早期に決定できるよう、東日本旅客鉄道株 式会社に対し、助言、指導すること。 (2)鉄道復旧までの間の代替交通を確保するために必要な財政支援を行うこと。 (3)道路の防災・震災対策等の事業推進のため創設された国庫補助事業である「社会資本整備総合交付金(復興枠)」については、平成 26 年度以降も継続すること。 (4)仮設住宅が解消されるまでの間、仮設住宅からの公共交通を確保するため、特定被災地域公共交通調査事業を継続すること。 (5)被災自治体が、産業の復興、安全・安心な暮らしが営めるまちづくりを行うため、高速交通網を主軸とした縦貫道と横断道の一体的な道路整備が重要な課題となっていることから、復興道路、復興支援道路等の道路を整備促進すること。 (6)離島に位置する漁港施設の災害復旧について、離島の実情に合わせた労務単価や台船等の単価を柔軟に見直す措置を講じること。また、津波波圧を考慮した海岸堤防を整備するために必要な設計及び工事費に対する十分な財政措置を講じること。併せて、災害発生年を含め3年以内に災害復旧事業を完了する取扱いについて、期間の延長を行うとともに、十分な財源を確保すること。 (7)港湾は、景気浮揚、雇用確保、環境問題への対応など、住民生活や産業振興を支える大変重要な社会基盤であり、被災地の復興を進める上で地域経済活動の拠点として、物流機能の向上と安全性の確保を図っていくことが必要不可欠であることから、湾口防波堤、海岸堤防及び公共ふ頭等の早期復旧を図るとともに、現在整備中の湾口防波堤等の整備を促進すること。 (8)再生可能エネルギー産業等の振興を進め、総合エネルギー産業拠点港湾として東北地方の復興を図るため、岸壁、荷役機械及び野積場の一体的な耐震強化及び超大型船(ケープサイズ船)に対応した大水深岸壁の早期整備を図ること。 以上決議する。 平成 25 年6月5日 |
第83回全国市長会議 |