第88回全国市長会議 決議

東日本大震災からの復旧・復興及び
福島第一原子力発電所事故への対応に関する決議


 東日本大震災から7年余りが経過し、被災した各自治体が懸命の取組を続ける中、それぞれの被災自治体は復旧・復興の段階に応じた種々の課題に引き続き直面している。
 国においては、一昨年3月に平成 28 年度からの5年間を「復興・創生期間」と位置づけた復興の基本方針を決定し、ハードだけではなく、ソフト面の対応や自立に向けた取組を進めているところであるが、被災自治体において地域の実情に応じた被災者の生活再建や地域の復興に向けた取組を一層加速していくためには、復興財源の確保はもとより、復興事業に係る専門的知識を有する人材の確保、予算制度の拡充・強化、柔軟な運用等、更なる取組が必要である。
 また、東京電力福島第一原子力発電所事故についても、国は、早期収束へ向け、引き続き、事業者と一体となって総合的かつ全面的な責任のもとに全力で取り組まねばならない。
 よって、国は、被災地の一日も早い復旧・復興を実現するとともに原発事故が早期に収束されるよう、下記事項について特段の措置を講じるよう強く要請する。



1.復旧・復興事業の実態に即した財政支援等について
(1)震災からの復興を成し遂げるために必要な事業については、復興の進捗に応じ、復興交付金や震災復興特別交付税などの財源を確実に措置すること。
 また、被災地の自立につながる取組や避難解除等区域等と連携して取り組む事業など、今後必要となってくると考えられる取組に対しても柔軟に対応すること。
(2)震災発生から時間が経過すること等により、各支援自治体では職員等派遣が困難となる状況が見受けられることから、被災市町村への職員等派遣について必要な措置を講じること。
(3)避難先における十分な支援を継続するため、避難者受入市町村の負担が生じないよう、十分な財政措置を講じること。
(4)災害援護資金貸付制度において、各自治体が当該貸付金に係る債権を免除または放棄することが適当であると判断する場合には、国においても自治体への債権を免除する規定を整備すること。

2.被災者の生活再建支援等について
(1)国民健康保険及び介護保険の一部負担金等免除措置については、震災の影響により保険財政の逼迫を招くことなく制度運営ができるよう全額財政支援措置を講じるとともに、東日本大震災等の影響による医療費の増加は、今後も続くことが想定されることから、医療費増加に伴う負担増分として財政支援を継続すること。
(2)被災者生活再建支援金については、被災地の実態にかんがみ、上限額や適用範囲の拡大等、総合的な制度の見直しを図ること。

3.地域産業の復興・再生について
(1)津波・原子力災害被災地域雇用創出企業立地補助金については、申請期間及び事業実施期間を延長するなど柔軟な制度運営を行うこと。
(2)地域で働く意識醸成やUJIターン促進に向けた取組に対する財政措置を講じること。

4.公共施設等の復旧支援について
(1)復興道路や復興支援道路等については、財源を十分確保し、整備方針に基づく着実な事業実施により、早期に全線開通を図ること。
(2)鉄道の早期復旧が図られるよう、鉄道事業者に対する支援措置を講じるとともに、鉄道復旧事業について財政措置を講じること。
(3)港湾関係予算を確保し、湾口防波堤の整備促進を図ること。

5.復興庁の後継組織の設置について 復興庁の設置期限は、平成 32年度末までとされているが、被災者による自発的な協働や新たな地域社会の構築等の状況にかんがみ、平成 33 年度以降も引き続き復興事業への支援、総合調整等を実施する国の機関を残すこと。

6.福島第一原子力発電所事故への対応と福島復興再生について
(1)原発事故の早期収束を成し遂げるため、除染・放射線モニタリングなど原発事故由来の事業については、引き続き、国の責任において、全額国費負担により強力に推進すること。
(2)放射性物質汚染廃棄物の管理・中間処理・最終処分などの処理のプロセス及び中間貯蔵施設・最終処分場の設置等について、国が主体的に責任を持って住民に説明し、その推進を図ること。
 また、基準を超える廃棄物の処理及び必要な施設の設置について、国が迅速に責任を持って対応すること。
 なお、除去土壌等の輸送に当たっては、関係機関と連携し、地域の実情に応じた道路改良や補修など必要な道路・交通対策を実施すること。
(3)福島第一原子力発電所の廃炉・汚染水対策については、事業者に任せることなく国が前面に立ち、確実に完遂すること。
(4)原発被災地の都市自治体が放射性物質対策に要した費用及び財物賠償については、国及び事業者の責任により、完全賠償すること。 商工業等に係る営業損害賠償については、一括賠償による対応が取られてきたところであるが、損害が継続して発生している場合においては、適切に賠償するよう東京電力を強く指導すること。
 また、農林水産業に係る営業損害についても、依然として出荷制限や風評被害により厳しい状況におかれていることを踏まえ、十分な賠償を確実に継続するよう東京電力を強く指導すること。
(5)原発事故により影響を受けている避難者を含めたすべての被災者の健康の確保、特に子ども及び高齢者等の心と体のケアや学校現場での対応について人的及び財政支援を講じること。
(6)避難者の早期帰還を促進するため、不足する福祉・介護及び保育・子育て分野の人材確保に向けた財政措置など必要な支援策を講じること。
(7)「原子力災害により影響を受けた地域」とのイメージから生じる農林水産物などの各分野の風評被害を解消するため、国内外に対し放射線に関する正しい知識の啓発及び風評被害払拭に向けた積極的な広報を行うこと。
(8)風評被害の影響等により落ち込んだ観光客の回復を図るため、広報・PRに対する支援、教育旅行の再生、さらには、観光地の整備などハード・ソフト一体となった観光施策を推進すること。
(9)原発被災地における鳥獣被害については、野生鳥獣肉の出荷制限に起因する狩猟者の減少等により、その被害が深刻化していることから、電気柵の設置等の被害防除や緩衝地帯の環境整備など被災地における鳥獣被害防止対策を充実するとともに、広域的な視点から国・県が連携して支援すること。
(10)福島・国際研究産業都市(イノベーション・コースト)構想並びに福島新エネ社会構想の実現に向けて、国及び関係地方自治体等が一体となって具体的な取組を推進し、新産業の集積と雇用創出を強力に支援すること。
(11)国民の間で放射能に関する理解が進んでいないことから、子どもから大人まで誰もが放射能について学び、自ら考え、判断する力を育むことができるよう、放射能教育の充実に向け、例えば高等学校の入学試験に出題するなど、教育の現場において幅広い角度からより実践的な取組が行われるよう努めること。

以上決議する。

平成30年6月6日

                                   全 国 市 長 会
第88回全国市長会議