第85回全国市長会議 特別提言 |
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少子化対策・子育て支援に関する特別提言 -医療・教育はナショナルミニマムとして国が取り組むべき- |
わが国が現在直面している急速な人口減少の流れは、これまでどの国においても経験したことがなく、国民生活とそれを支える行政の役割は、大きな転換期を迎えている。 そこで、これまでの社会的・経済的な枠組みを根底から見直し、人口減少・少子化を見据えた新たな全体の枠組みを構築することが必要となっている。 そのため、まず、国は、将来に向けた基本的なわが国の向かうべき方向性(グランドビジョン)を示し、国民の生活や社会の安定を守るための基礎的なサービスの提供を担保する制度の構築を責任をもって行うべきである。 特に、出産や子育てに関する医療・教育面での経済的負担の軽減については、ナショナルミニマムとして、国の責任において環境を整備することが重要であると考える。 一方、全国813の都市自治体は、人口規模・出生率・地理的、社会的条件など千差万別であるが、それぞれの地域において住民と日々、直接接していることから、人口減少・少子化の実態を切実な思いをもって感じており、危機感を持って取り組まなければならない喫緊の課題と認識している。 都市自治体は、これまでも少子化対策・子育て支援は人口減少対策の中心テーマであるとの認識のもと、各種サービスの向上に取り組んできた。 今後、本格的に少子化に立ち向かうためには、都市自治体がコーディネートしながら、あらゆる世代やさまざまな主体が一体となり、地域の実情や特性をふまえ、さらなる施策の充実に努めなければならないと考えている。 もとより、少子化対策・子育て支援を進めるうえで、国と地方は車の両輪である。 それぞれの担うべき役割と責任を分担し、バランスよく回転していくことによって、子どもを産み、育てやすい温もりのある地域社会が形成され、わが国の活力ある未来が切り開かれていくものと確信する。 |
記 |
T 少子化対策・子育て支援のための国の役割と責任 国は、人口減少に立ち向かうために、少子化・子育てにかかる次のことについて積極的に責任を持って取り組む必要がある。 1 少子化対策のための国の統合的な骨太の指針を示すこと。 人口減少や少子化は、わが国の行く末を左右する重要な課題であり、国民生活にも大きくかかわる問題である。そのため国として長期的視点に立って少子化対策に係る統合的なグランドビジョンを早急に作成すべきである。 2 医療・教育はナショナルミニマムとして国が責任を持つこと。 (1) 安心して子育てできることを立法措置により示すこと。 国は、すべての国民が全国どこに住んでいても不安なく、安心して結婚し、子どもを生み育てることができるよう、医療・教育の経済的負担の軽減などについて、国の基本姿勢を明確化するための立法措置を講じることが必要である。 (2) 子育てにかかる医療費は、国が全国一律で負担すること。 子育ての不安を払拭するためには、妊娠・出産・幼児医療など子どもの生命に係る保障が、全国どこにいても、また、世帯の経済状況に影響されることなく、担保されることが必要である。 そのため、すべての都市自治体が、財政状況などを勘案しながら可能な範囲で単独施策として実施している子ども医療費の無償化については、国の責任で実施すべきである。 また、産科・小児科医の確保等の地域医療の充実、保育料負担の軽減について、国はより積極的に責任を果たすべきである。 (3) 家庭状況に左右されることなく、すべての子どもが必要な教育を受けられる環境を整備すること。 教育に係る経済的負担を軽減するためにも、公教育の質的向上を図るとともに、家庭の経済的状況に左右されることなく、すべての子どもが必要とする教育を受ける機会を持てるような教育制度を整備すべきである。 3 子どもたちが将来に健全な夢をもつためのライフ・デザイン教育を推進すること。 結婚や出産などについての個人の意思は尊重する必要があることはいうまでもない。それゆえに、人格形成に大きな影響を与える学校(義務)教育の段階において、しっかりと自分の将来の夢や結婚・家庭・子育てについて考える場と機会を設けることが重要である。 4 子どもの貧困対策を総合的に推進すること〜貧困の連鎖により子どもの将来が閉ざされることのない社会の実現を〜。 日本の子どもの相対的貧困率(2009年:15.7%)は上昇傾向にあり、OECD(経済協力開発機構)加盟先進国34か国中、10番目に高く、OECD平均を上回っている。特に、大人1人で子どもを養育している家庭が経済的に困窮している傾向にあり、一人親家庭への支援策の充実が求められる。 貧困対策は社会基盤の強化に直結するものであり、教育をはじめ、生活・就労支援を総合的に推進することが必要である。 5 一人ひとりのライフサイクル環境の整備を促進すること。 結婚や子育てには、経済的安定、就労環境が大きく影響している。 国は、働く意欲のある人が安定した収入が得られるよう、最低賃金の見直しや、非正規から正規などの雇用形態の改善に努める必要がある。その上で、どのような雇用形態であっても、仕事をしながら子育てをする水平的な仕事と生活の調和(水平的なワーク・ライフ・バランス)を図るとともに、子育てが一段落した後に仕事に再び就くことができる垂直的な仕事と生活の調和(垂直的なワーク・ライフ・バランス)が図れるよう労働法制が十分に機能するようその普及・啓発につとめるべきである。 6 地域社会で多世代が共生できるよう支援すること。 地域社会は、多世代共生が必然的な姿であり、互いに助けあいながら成り立つものである。 もちろん、人口減少対策や子育てに関しても、こうした地域社会の持つ機能の重要性は誰もが認めるものである。従って、国は、年少者・子育て世代・高齢者に対する縦割り区分の対策ではなく、それぞれの社会福祉施策を連携させ、相乗効果のあがるような制度や予算の枠組みに再構築することが必要である。 7 各地域が共存できるよう、人・もの・資金等の東京一極集中を是正すること。 少子化対策は、公平な基本的条件を整えた上で、国と地方、地域と地域が役割分担と連携をしながら取り組まねばならない。そのためには、地方の生活環境や社会基盤を整備することにより、人・もの・資金が動きやすくする条件を整え、東京と各地域とが共存ができる形での東京一極集中の是正が必要である。 8 都市自治体が現場で実効ある対応ができるよう分権を推進すること。 少子化対策・子育て支援のために、今、何が必要であり、いつ、誰に、何をしなければならないかを最も知るのは現場であり、それを限られた財源の中で実践しているのは都市自治体である。 しかし、例えば、保育所における自園調理原則や面積基準等の国による義務付けなどによって、保育サービスの提供に支障が出ているケースがある。 国は、都市自治体が現場の実情に即した実効ある対策が講じられるよう、その隘路となる規制を見直し、権限を前向きに移譲するよう努めるべきである。 9 必要な財源を確保し、役割に応じた国・地方間の財源配分をすること。 少子化対策・子育て支援を実効あるものとするためには、国・地方を通じた財源の確保や配分について議論する必要がある。 例えば、少子化対策・子育て支援のための支出額の対GDP比率を、合計特殊出生率の向上に成功した西欧諸国並みに高めるためには、現在の国・地方を通じた財政状況にかんがみ、他の政策分野との財源配分の調整をすることが必要であるが、現在、都市自治体が実施している子育て世代の経済的負担の軽減など、ナショナルミニマムに相当する部分については、国の責任で担うべきである。また、地方が地域の実情に合わせて実施する事業に要する経費については、地方消費税など自由度の高い財源を充実するとともに、基準財政需要額に的確に計上されるべきである。 U 少子化対策・子育て支援のための都市自治体の役割と責任 われわれ都市自治体は、少子化・子育てについてそれぞれの地域の実情に応じて積極的に次のことに取組む。 1 支援サービスを「見える化」すること。 都市自治体が行う少子化対策・子育て支援のための行政サービスについては、それを必要とする人に対して「見える化」することが肝要である。都市自治体から住民に対して親切かつ適切なメッセージを提供することによって、その地で結婚・出産・子育てをする住民に安心感を与えることができる。 2 行政の守備範囲を見極め、多様な主体と連携して効果的な支援をすること。 少子化対策や子育て支援は都市自治体の重要な役割であるが、そのすべての面を都市自治体がカバーすることは不可能である。 自治体内には、社会的課題の解決に積極的な取り組みを行っているさまざまな主体があり、そのような取り組みを積極的に支援し、行政と緊密な連携を築くことで、子育て世代にとってより良い地域の環境を整えることができる。 3 必要とする人に必要なサービスを確実に提供するため、子育てサービスのワンストップ化と支援を必要とする人に手を差し伸べるアウトリーチを実施すること。 (1) 行政を横断的に統合して、支援サービスをワンストップで提供する。 子育て世代に対して、住民のそれぞれのライフステージに応じて結婚、妊娠・出産・育児にかかる切れ目のない支援サービスがワンストップで的確に提供されることが重要である。 例えば、妊娠・出産・育児のライフステージを通して特定の担当者が見守り、寄り添い、相談する等の対応をすることにより、信頼関係が築かれ、子育ての安心感を醸成することができる。 また、少子化対策・子育て支援を効果的かつ効率的に実施するためには、首長等をトップとした各部門を横断する体制をつくるなど行政内の統合化も重要である。 (2) 真に支援を必要とする人に手を差し伸べる(アウトリーチ)。 サービスを必要とする住民の申し出を待つのではなく、「見える化」をさらに一歩進めて、行政から積極的に住民に対してサービスの案内や提供を申し出ることも必要である。 そのためには、マンパワーの充実に加え、プライバシーを尊重しつつ適切なマイナンバーの利用や、インターネットなどの活用が有効である。 4 周辺自治体やゆかりのある自治体との連携を生かすこと。 単独の都市自治体があらゆることを行うことには限界があるので、当該自治体の個性を生かしながら近隣の自治体やゆかりのある全国の自治体などとの連携を通して施策を展開することも重要である。 5 地縁型・ネット型地域社会の醸成を促進すること。 合計特殊出生率の高い都市自治体をみると、地域社会の果たしている役割が大きいことが分かる。子育て世代が、地域で安心して暮らし、子育てをする上で地域社会の果たす役割は重要である。 そのため、地縁型の地域社会やネット型コミュニティの構築を支援するとともに、拠点への専門職員の配置なども必要である。 6 サービス水準の競争よりも地域の誇りの競い合いをすること。 都市自治体ごとにそのサービスの内容に違いがあるのは当然であるが、地域間で経済的負担の軽減などの子育て支援サービスを競争して子どもたちを取り合うようなことは望ましくない。 地域に住む人々が、自分の住むまちに対して愛着や誇りをもつことが第一である。他都市との相対的な比較や競争を煽ったりするのではなく、愛着や誇りといった地域の魅力の競い合いによって子育て世代の住みやすいまちを目指すべきである。 7 人口減少社会に合わせた都市環境整備を行うこと。 限られた財源の配分を、新設モードから再編・維持モードへ転換することも必要である。 周辺自治体と機能連携をすることで限られた資源を有効に活用し、住民に適切なサービスを提供する体制を整えることができる。また、都市自治体内の中心部にさまざまな都市機能を集中的に配置し、併せて都市内の集落とのネットワーク化を図ることなどにより、効率的な行政サービスの提供や施設の維持にかかる経費の削減を図ることが可能となる。 8 支援サービスの実施において、地域のマンパワーを活用すること。 都市自治体の行政サービスは人的サービスを中心としており、それを担っているのは都市自治体のマンパワー(職員力)であり、研修の充実等により職員の資質の向上を図ることが重要である。しかし、都市自治体の職員数には限りがあることから、地域住民やNPOなどと連携して地域のマンパワーを最大限に活用することも必要である。 平成27年6月10日 |
第85回全国市長会議 |